お箸を知る

お箸の起源

日本人は、箸に始まり、箸に終わる民族です。
生まれて間もなくお食い初めでお箸を使い、それから幾度となく三度の食事に箸を使い、葬儀では、お骨を箸で拾い上げます。お供え物のご飯にはお箸を立てて供養します。
箸は日本人にとって生活の中に溶け込んだ必需品であると同時に、精神に根付いた非常に重要な道具であると言えます。

お箸の起源

端と端を繋ぐ「橋」、高所と地上を繋げる「はしご」など、「はし」という言葉は一方とまた一方を繋ぐ箸渡しをする道具に名付けられたものです。お箸も例外ではなく、箸先は人のもの、天部分は神様のものとして考えられていました。それ故に昔は食事の際にはお箸に神様が宿ると考えられていました。

お供え物の際に、「竹」が神様と人「(物)」をつなぐ役目を果たしたということから、この道具が「箸」という漢字を用いられるようになったわけです。使うことにより、神様に感謝する、人と神様を結ぶ橋渡しの道具ということになります。
詳細な起源は解明されていませんが、お箸のルーツとして、神事に使われていたと言われる木をピンセット状に加工したものが奈良の正倉院に現存しています。 現代と同じ二本の棒を組み合わせて使うスタイルは、遣唐使が唐で2本に分けられたものを箸として使っているのを見て、日本にそれを持ち帰り、朝廷の食事に取り入れたとされています。

箸の歴史

大昔、人々が火を用いて調理をするようになってから、熱い食べ物を取るために木の枝を折って使ったり、枝を削った箸を使ったりするようになったと言われています。
中国では約3,000年も前から箸が使われていたと伝えられています。3世紀頃に編纂された『魏志倭人伝』において、手づかみで食事をしていた記述があり、後に世に出る『古事記』や『日本書紀』などには箸に関する記述があることから、やはり4世紀から7世紀の間には箸が伝わっていたことが推測できます。
奈良時代になる頃には箸の文化が普及し、平城京の跡地より、木を削ったような箸が多く出土しています。平安時代には絵巻にも箸が描かれ、当時の庶民の文化をうかがい知ることができ、貴族のみではなく、世間一般に幅広く浸透したと言えます。そして鎌倉時代には漆を使った箸が登場します。強度を高め、繰り返し使用することが目的だったと言われています。
朝・昼・夜の1日3回の食事文化というものも、この頃に原型ができたと考えられています。室町時代には茶道が台頭するなど、食文化の多様化に伴って杉や檜の箸が多く使われるようになり、江戸時代に至っては、外食産業の発展により割り箸も使われるようになり、ほぼ現代と同様の箸文化となったようです。同時代に若狭で塗箸が作られ、明治に普及し昭和時代に大衆化していきます。
始めは、祭祀など神聖視されていた箸も時代が進むにつれ、用途や文化に応じてその種類を増やし、日本の食文化には欠かすことの出来ないものとなっていったのです。

箸の文化

食事に用いる道具で世界を区分してみると、手掴みで物を食べる手食文化圏(東南アジア・中近東・アフリカ)が44%とほぼ半分を占め、ナイフ・フォークを使用するカトラリー文化圏(ヨーロッパ・アメリカ・ロシア)が28%、お箸を使う箸食文化圏は(日本・中国・韓国・ベトナム・タイ・シンガポール)は世界の約28%と言われ、意外にも幅広く東アジア一帯に広がっています。
しかし、箸食文化圏とはいえ、箸と匙をセットで使うスタイルが大半であり、箸のみで食事をするスタイルは日本独自のものであると同時に、日本はただ一つの「完全箸食文化圏」と言えます。インディカ米などとは異なり、粘り気のある日本米を食べるのに向いているからではないかと言われています。
さらに、「自分だけの箸」を決めて食事をするというのも日本だけの風習であり、他の箸食文化の国々には見られないスタイルです。