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箸職人 阿部敬氏

お知らせ

2021.04.10

川連塗師・阿部敬氏のお箸は、サラサラしているのにしっとりと気持ち良く手に馴染む。不思議なお箸だ。つい触感を楽しんでしまう。

阿部さんが箸専門なってから十五年ぐらい経つ。川連塗の歴史の中で箸専門の塗師は初めて。阿部さんも元はお椀の塗りや販売をしていたが、ある時塗りの研究会でお箸を勧められて、はまってしまったそうだ。

「お箸はたった二本の棒なんだけど、塗りの縮図みたいなところがあるんですよ。塗りのパターンはテーブルを塗るのもお箸を塗るのも同じだから、お箸を塗っていれば何でもできるぞ、みたいな。お箸の形は変えようがないから、その制約の中で変化をつけるとしたら塗りで勝負するしかないでしょ。だからやってて面白いんですよ。経験から予測してお箸を塗るでしょう。ところが、予想が外れることがある。大方予想が外れてダメになるんだけど、たまにいい結果が出ることがあるのよ。それが面白い。発見があるんです。で、だんだん入り込んでいっちゃった。)

漆の場合、一番外側に何を塗っているかを表示すれば良いので、漆だけ使っているか、ウレタンを混ぜているかは表示を見てもわからない。残念なことに漆製品の一部は、成分の大半がウレタン樹脂などで占められていて漆は数パーセントしか使われていない。阿部さんはそういう状況を逆手にとり、最初から最後まで天然の漆だけを使ってお箸を作る、ということを武器にして仕事をする。

「とにかくお箸って毎日毎日使うし、口に入る。なのに、ほとんどウレタンみたいな樹脂塗料を使っている。でも箸先って減ってきて、必ず木地が出てくるでしょ。その分を食べてるってことでしょ。だったら、安全な自然の漆を使ってね、最初っから最後まできちんと漆を使ったお箸を、多少高くても作っていけば何とかなるかな、と思って。他と同じことをやってもダメだから、逆にやってもいないようなものをやったらいいかな、て思っちゃったんです。」

天然の木を使って天然の漆で、安全なお箸を作る。最近は安全性ということに関して、自分の仕事に自信を深めている。

「箸作りを始めた頃は環境ホルモンなんて出てこなかった頃なんだけども、その後そういう話が出てきて、あぁ、間違いなかったのかな、って。」最も気にかけているのは箸先のもちだという。一番擦れる部分だし、噛む人もいる。

「買って何回か使うとすぐ木地が見えてくるようでは困るでしょ?お客さんがいくらかでもお金を出して買ってくれているんだから、それ以上のものを作り手としては提供していきたいなと思うじゃないですか。あぁ、良いお箸を買ったと思ってもらったらありがたいですもん。」

阿部さんは職人である。正直にも良いものを作っていれば、必ず認めてもらえる。そう信じて目先の損得に捕らわれず常に新しいものを、人のやっていないことを発見しながら箸を作っている。だからこそ、私たちが阿部さんの作るお箸に魅かれるのだろう。すべて天然の漆を使っていると知らなくてもそのお箸が充分魅力的なのは、そういう仕事に対する気持ちがこもっているからなのかもしれない。

高橋隆太(2003)究極のお箸 42-45