伝統工芸士・羽田要一郎氏の塗り箸は、漆の色の深みといい、模様の出具合といい、溜息が出るほど美しく上品だ。
若狭塗は、慶長年間(1596年から1614年)に小浜藩の松浦三十郎が中国の漆塗盆を模して作ったのが始まりと言われる。その弟子が海辺の貝殻と白砂の美しい若狭の景色を模様した磯草塗りを考案し、後年、卵殻金箔押しの技術が完成。寛永11年に小浜藩主となった酒井忠勝が「若狭塗」と命名し、保護蒋励したため漆塗業が盛んとなる。また時を同じくして、箸先が鶴のくちばしのように細い「若狭塗箸」を縁起の良い長命長寿の箸と称し、日本一のお箸の産地としての基礎を築いた。
創業300年の老舗、羽田漆器店の13代目当主である羽田氏が心掛けていることは、
「とにかく伝統通りにやること。基本通りにやる。これが間違いない。」漆塗表記があるからといって漆が必ずしも使われているとは限らないご時世だが、羽田さんは誤魔化すことなく本漆を使う。ここに伝統通りにやるという羽田さんの姿勢が現れているのだろう。
「伝統工芸に指定されているんで、かえっていい加減なことはできんのですわ。手を縛られてるようなもんで。ははは。これでいい加減にやってたら困りますしな。」
若狭塗業界で最年長になったという羽田氏だが、非常に明快な語り口でとても昭和4年生まれの75歳とは思えない。まだまだ現役に見えるが、気掛かりな後継ぎに関しても心配はないようだ。
「もう息子が一人前にできて、自分で考えて色々とやっています。息子のは少し柄が変わってるね。もう、ホントに若い人に頑張ってもらわんと。」
高橋隆太(2003)究極のお箸(株式会社三省堂出版) p.120-p.121